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梅田陽子のマインドボディ便り
更新日:2008.10.01(水)
【第1話】
心の力
北京オリンピックの勝者として女子のソフトボール選手たちはその活躍に多くの賞賛を受けています。LIVE中継は釘付けになって応援しました。思い出すのは8年前。シドニーに向け日本代表メンバーに選考されるよう某企業の選手たちは必死で女子一部リーグを戦っていました。私はそのチームのメンタルトレーナーをしていました。
我々からはピッチャーが1人選ばれ、大勢が残念ながら漏れましたが、彼女たちの実力はオリンピック選手たちと甲乙つけがたいほど拮抗しているのは事実です。リーグ戦を全国帯同した経験からどの選手も身近に感じていたため、シドニーとまたその後のアテネのの敗戦はぐったり力が抜けるように辛く感じていました。
ソフトボールの球場は、野球の90m以上と比べ61mほどしかありません。ピッチャーマウンドまで野球は約18mでソフトは約12m、塁間は野球は約27m、ソフトは18m。意外と狭いと思いませんか?ボールが大きく重いことが理由ですが、狭いからこそスピード感があり、エースの上野投手の球は速く感じるだけでなく、ドスンと足元に厚く落ち恐ろしいほどです。競技場内のベンチや選手間の距離が短いのでちょっとした言葉や思いは伝わりやすく、時によっては相手ベンチの監督のイライラまで伝わってきます。
内野はちょっと前進すればピッチャーに声が届くので、一球さばく毎に駆け寄っては一声かける場面が良く見られました。野球ではないことです。あの時みんな何て言っているのか?気になって聞いたことがあるのですが、てっきり「ドンマイ」とか「大丈夫」とか言っていると思ったら、「あのバッターよりあんたのほうが可愛いで」なんてこと言ってると聞いたときは爆笑しました。
野球とソフトの大きな違いのひとつに「ランナーのリードがない」ことがあります。ピッチャーの手からボールが離れてからしかランナーはベースを離れることができません。だから牽制球はないのです。他にもファーストベースが2枚あることに気付きましたか?これは野手とランナーが接触しないように事故防止のために設けられたダブルベースと言うルールです。ランナーは打った後、走者用の外側にあるベースを踏むことになっています。守備はちょっとしたボールさばきのミスをすると、ファーストでアウトを取るのがかなり難しくなります。内野の守りにミスが許されないのです。ですから硬い守りが点を取られないために大変重要なのです。
自分がちょっとしたミスでアウトにできず、それがきっかけで流れが変わり敗戦となると、同じような場面が来るたびに体は構え萎縮してしまいます。「気にしない!」と自分に言い聞かせても硬くなってしまい、時には同じ失敗ばかり繰り返し「苦手な場面」が脳に刷り込まれ、「この場面になるとまた失敗するのではないか?」と言う気持ちから「必ず失敗する」と言う気持ちになってしまい、見る見るうちに「その状況に限定されたパフォーマンスの低下」が起こります。
そのマイナスに強化された思い込みを変えるには、リラクセーションや論理的にその場面だけボールを落とすのはおかしいと考える論理療法や認知行動療法のように練習で同じような場面を設定し繰り返し緊張しながらでも小さな成功体験を重ね自信を取り戻す方法、うまく出来る度にチームメイトから賞賛をもらえるような「成功=褒美」を条件付ける方法などがあります。他にもバイオフィードバック法やイメージトレーニングなどメンタルトレーニングには個人に応じた様々な方法があります。
心技体と言うように、技術や体力がどんなに優れていても心に恐れや不安が潜んでいれば、結局パフォーマンスに影響が出ます。勝因はと聞かれ、迷いもせず信念を裏打ちした「勝ちたい気持ちがどのチームよりの強かった」と応えた上野投手の言葉が印象的でした。8年後、もし東京オリンピックとソフトボール復活が現実となったとき、日本に「勝たなければならない主催国の責任」がのしかかるでしょう。その時「心の力」が気合いではなく気負いにならないために、今から「勝つ信念」を明確に目標設定し、選手の心に刻み始めることがこれからの課題だと思います。
梅田 陽子
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