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梅田陽子のマインドボディ便り
更新日:2015.03.11(水)
【第44話】
神戸から20年、東北から4年を迎えて
初春の頃、そして神戸の震災から20年、東北の震災から4年ということもあり、防災意識は高まってきています。全国どの地で起きてもおかしくない、しかし反面わが身には降りかからないだろうと多くの方が思い込んでいるのも事実でしょう。
その時その瞬間が来たとき、おかれた状況で自分はどう動くのか?またその後は、どのように生活すればよいのか?その時どこにいるのかは誰にも分かりませんし、その後の予想もできません。様々な場面を想定した避難訓練をしているわけでもなく、また特別な研修を受けたわけでもない私たちは、知らないこと分からないことが山のようにあります。その日その時に、最善の行動がとれるように日頃からどのようにしておけばよいのでしょうか?健康増進に携る専門家という視点から考えたいと思います。
以下は、運動指導中に被災した専門家、健康づくりのチームを束ねる組織のリーダーから教わったこと。そして自身が体験したことを合わせ、振り返ってみました。
① 運動中、持ち出す必要のあるものはそばに置いておく。特に高齢者対象の場合。
更衣室のロッカーに入れていたら、そこに取りに行けなくなるかもしれない。身軽な運動ウェアのままでは、上着も帽子も、もしかしたら靴も履いていないかもしれない。携帯電話は家族との安否確認に必須。動揺して何もできなくなるかもしれない。だから着替えと靴と電話はすぐに取りに行ける「見えるところ」に置いておくことは、一つの準備行動。自分のことは自分でできる環境を日頃から整えておくこと。
② 急性期の避難所では足裏マッサージは出来なかった
中越沖地震の教訓から、被災した時エコノミー症候群の予防に、足の体操やマッサージは効果的なのは分かる。しかし、現場には、靴を履かずに逃げて足に傷を負った人、刺さっているモノに数日気が付かなかった人、がれきの地に戻り怪我をしてしまう人など、急性期の避難所では、足の感染症が多く足裏マッサージはできなかった。他にもがれきの山を登り降りし続け、腿の筋肉が炎症してうまく歩けなくなった人もいた。感染しない、炎症を悪化させないための薬品の準備が必要だ。
③ メディアにつかまる
避難所で、何かできることを尋ねると散歩を頼まれた。連れて出たらメディアにつかまって歩けなくなり2日でやめてしまった。自治体がどのような活動をしているのかを取材したいのは分かる。しかし、テレビカメラとマイクに追いかけられ、大事な連絡をしている時も、振り返るとモコモコのマイクが忍び寄ってくる。ここに録音されないように気を配る。そのエネルギーを使うことが辛かった。
④ ラジオ体操は生活の習慣を立て直した
誰もが流れた家々の街に片づけに出て行き、そして帰ってきたら毛布をかぶって寝てしまう毎日。そこに ラジオ体操が光を差し込んだ。こんな時に体操なんかしていいのか?怒鳴られたりしないだろうか?うるさいと疎ましがられないだろうか?不安で不安で仕方がないけれどやってみた。すると子供たちが動き出し、大人たちも徐々に動き出し、次第に生活のリズムを取り戻すきっかけになった。100%受け入れられたとは言えない、でも配慮と勇気はどちらも大事。
⑤ 自分の家は被害を受けず大丈夫だったのに、高齢者の5人に一人の割合で日常生活がうまくできない生活不活発病になっていた。
自宅が水に浸かっていない、いわゆる被災していない人でも、生活圏の変化で、歩いていた場所がなくなる。体操教室が閉まる。共に運動していた人が亡くなる・引っ越してしまう。買い物など生活の導線が切れる。など自身が全く被害を受けていなくても、生活から身体活動が激減するという事態が起こる。高齢者の生活機能に大きく影響を与えるのだ。地方の高齢者にとって畑仕事は生きがいであり健康維持の運動であった。その畑がなくなってしまったことで、人に与え分け合っていた交流が途絶え、外に出る機会を失ってしまった。
「力が強いものが生き残る」(仙台で三方からくる津波に囲まれたタクシー運転手)。「緊急時には、いかにして自分で自分を守ることができるかにかかっている。自分の人生を納得して生きるための力を、日ごろからはぐくむことが大事である」(仙台のリーダーの言葉)。 そして、厳しい生活の中でも生きていく力を支えるのは、周囲と話したりなど仲間を感じられる周囲との関わりである。「合言葉は近くのモノが助ける【近助きんじょ】」(岩手健康運動指導士)。「頼れるのはすぐそばの力だ」(仮設集会所にて住民)。
エコノミー症候群や生活不活発病に気づけない非日常に一石を投じられるのは運動指導者でしょう。しかしその行動を起こすときは管理者、医療者、そして住民の声を聞き洩らさない配慮と、自身をコントロールする力が求められます。 初動を起こすと決めたあの日、支えてくれたこのアドバイスを私は忘れません。「無力感に苛まれる覚悟して入れ」。
それでも何もできない自分に苛立ち、活動を求めたときの保健師さんの返事は、これまで耳にしたことがない言葉でした。「運動は今はいりません。でもいるようになる時まで待っていてくれますか?」。この時、ずっと先に明かりが灯された気がし、進むことを決めることができた瞬間でした。
あれから4年が経ち、土地の整備が日々進んでも、新たな悩みを抱えるなど、前に進めない方はたくさんおられます。被災者アンケートでも体の問題として「運動不足」と答える方は相変わらず一番多く、運動は心に良いと言いながら進展していない運動政策に焦りを感じてしまうのも正直な気持ちです。しかしそんな岩手に、なんと来年「国体」がやってくるのです。この大イベントが起爆剤になるよう、誰もが私ごととして体を動かす習慣をもてるようこれからも問いかけ続けていきます。
梅田陽子
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