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- 【コラム】梅田陽子のマインドボディ便り
梅田陽子のマインドボディ便り
更新日:2013.11.05(火)
【第29話】
全国産業安全衛生大会を終えて -1-
昨年度の取組報告~就業中の短時間運動の心身への効果~
全国産業安全衛生大会メンタルヘルス/健康づくり分科会研究発表には、多くの企業関係者が集まられ、各社の発表に聞き入っておられました。私は、昨年実施した大手旅行会社の「心身の健康度を改善した短時間運動の効果について~デスクワークを中心に~」を報告しました。肩こり予防エクササイズとしてVDT対策を行ったのですが、重ねてメンタルヘルスの一次予防も目的としたことが特徴です。
内容は以下の通りですが、発表内容は2つの現在進行中の事業を加えました。一つは、この事業が好評を頂いたため本年度も採用されたご報告です。日数も増えただけでなく、腰痛や眼精疲労、また有酸素運動も取り入れ参加者の要望に広くお応えしながら展開中です。もう一つは経済産業省の平成25年度サービス産業強化事業費補助金(地域ヘルスケア構築推進事業)における「都市型スマートストレス・マネジメント事業」についてただ今検証中であることを報告しました。これについては次の機会にご説明いたします。
発表終了後、約250名の方から情報交換のご要望をいただきました。名刺を頂戴した皆様には、これからご連をさせて頂きますのでよろしくお願い申し上げます。また、このコラムにて順に情報をお届けしてまいります。
「心身の健康度を改善した短時間運動の効果について~デスクワーク労働者を中心に~」
梅田陽子 《共同研究者》郡勝比呂、坪井一将
1.はじめに
わが国では、VDT作業による疲労が非常に高い割合を占める状況にある。事業者は、作業管理を行うとともに、メンタルヘルス、健康上の不安等についての健康相談の機会を設けるよう努めまた職場体操等、就業の前後又は就業中に軽い運動やリラクゼーションを行う等、心身両面からの対応が望ましいとされている(「VDT作業における労働衛生管理のためのガイドライン」平成14年)。平成22年国民生活基礎調査の概況における自覚症状の状況によると、肩こりは女性の1位、男性の2位ならびに腰痛は男性1位、女性2位であることからもこれらが身体的不調を示す指標であることが伺える。加えてわが国の労働者のメンタルヘルス問題は深刻であり、健康日本21(第2次)によると、職業生活等において強いストレス等を感じる労働者は約60%に上っており、メンタルヘルスに関する措置を受けられる職場の割合の増加を指標として設定された。
また精神障害に係る労災認定件数は、本年度も最多と報告されていることからも、メンタルヘルス対策は早急の課題とされている。一方、米国を中心にプレゼンティズム(Presenteeism)という指標が注目されている。これは、近年出勤はできるものの「アレルギー」「腰痛・首の不調」などの健康問題により労働能力が低下し、生産性に影響を与えると考えられている。これらのことから、肩こりなど欠勤するほどではない軽度の症状が慢性的に生じることは、個人の健康度および、労働生産性を低下させる要因であることから、対策を講じることによりVDT対策に留まらずメンタルヘルスの一次予防、しいては企業の生産性の向上に寄与すると考えられる。
2.説明会で参加者を募る
社員が積極的に参加できる体制を整えるために「~さよなら肩こり☆ようこそ美BODY~肩こり解消プチセミナー」と目的を明示した体験型の説明会を実施した。本会の内容は、取り組みの説明と実技の体験とし、30分間で2日間に計6回実施した。アンケート調査結果から、ほぼ毎日肩こりを訴えるものは半数以上おり、実技体験により9割が症状に改善があったと答えた。また実技は、就業中に社内において短時間で簡便に実施との希望が多数を占めた。
3.具体的な方法
運動は「肩こり解消エクササイズ」と題し、1カ月間のうち12日間、1日1~2回の全20回を就業時間内に実施した。1回の時間を15分とし、肩凝り解消エクササイズ(7種類の連続動作)を運動指導者のもと毎回同じ内容を教授した。加えてテキストを配布し自主運動を推奨し1カ月間の実施記録をつけるよう促した。
効果を測定するために、運動の介入を行わない通常業務の時期を「運動なし期間」として1カ月設け、その後介入を行う「運動あり期間」を1カ月設定し、その前後に以下項目を測定し運動の有無に対する比較検討を行った。
測定項目は、体重、血圧、心拍数、筋硬(肩の筋肉の硬さ)、心電図(自律神経動態)、質問紙はプレゼンティズムと、主観的な健康度としてビジュアルアナログスケール(VAS)とした。
4.結果と効果的であった理由
12日間実施のうち参加回数の平均は3.4日、1カ月間の自主トレのうち実施日数は5.9日であった。それぞれ重なりがないと仮定すると3日に1回は運動を実施していたことになる。また、実施回数が多いものほど効果を実感していた。
VASの結果、運動なしの期間と比べ運動ありの期間では、「首・肩の凝り」「目の疲れ」「疲労感」の身体症状、及び「落ち着き」「イライラ」「集中」「抑うつ」など気分の改善がみられた。また運動教室の参加回数と眼精疲労感との関係性について解析した結果、自主的に実施したものもある中、指導者による教授を受けた回数が多いものほど眼精疲労感が軽減しており注目すべき結果となった。長時間のVDT作業中に、自席を離れる、正確な運動方法の教授を受ける、指導者や職場仲間と対面し交流する等の影響が疲労軽減に効果を示したと考えられる。
次にプレゼンティズムの結果、数名に肩こりを原因とした業務遂行能力の低下が確認され、1カ月間の合計時間では0~7時間と個人差は大きいものの、参加者合計は「運動なし期間」は63時間、「運動あり期間」は65.8時間であった。運動を行ったことによる時間数の低下は認められず、ほぼ同時間数の結果であるが「運動あり期間」が繁忙期であったことから、増加せずにとどまったと解釈できる。肩こりは欠勤するほどの体調不良ではないが、業務の障害となり生産性の低下をもたらす可能性が示唆された。
5.終了後に個人へ結果報告
終了後、個別に効果を報告し生活習慣のアドバイスを実施した。筋硬計と心電図計測は、個人の興味度が高く、結果が期待されたが統計的な有意差は認められなかった。しかし、「冷えが改善した」「繁忙期にかかったが肩こりが悪化しなかった」等の声があり、個人レベルでは数値の改善と主観に関係性を見出している者も認められた。
6.まとめと課題
短時間運動の取り組みは心身の健康度の改善が認められ、また15分の作業中断であっても、業務支障をきたさず逆に効率が向上する可能性が示唆された。従って、事業終了後も運動の習慣化を促したのであるが、個人の自主性に任せた継続的実施は困難であり就業時間内に自席での運動風景は見られなかった。企業は、健康増進を促すウォーキングマイレージなど健康づくりの取り組みや、フィットネスクラブと提携し運動実践の日常化を促している。本事業場も同様であるが、個人管理による健康づくりは動機に大きく左右され、一方外部施設に通うには就業後に時間のゆとりが必要であることから、いずれも継続性に困難を見出すものが多かった。そこで行われた本事業は、心身両面に効果が実感できたことに加え「参加が容易である」「プライベート時間に影響しない」ことが好評を得、翌年度は、継続的な実施に向け計画中である。
梅田 陽子
「全国産業安全衛生大会を終えて -2-」へ続く
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