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梅田陽子のマインドボディ便り
更新日:2012.11.01(木)
【第27話】
これまで被災地業務に携わって
11月は、5日から10日まで被災地の野田村業務に従事します。昨年の4月から始まり、今回で13回目の介入になりました。野田村とは、被害が大きかった宮古市や田野畑村の北に位置し、三陸鉄道という沿岸の貴重なライフラインでつながっていました。
農業、林業、漁業などの第一次産業の割合が大きい人口4686人、高齢化率29%の小さな村です。そこに16.4m、最大18mの津波が襲いました。震災直後941名が被災し、沿岸部の地区は消えて無くなり。37名の尊い命が失われました。
この写真は、被災直後の状況です。陸前高田の一本松が有名ですが、この写真の左奥にも海岸線に数本残った松が見えます。この撮影地点に野田村役場が建っており、海岸線までは1kmの距離ですが、本来は建物が立ち並び海は見えなかったそうです。
赤い屋根が野田村役場です。玄関には車が突っ込んでいます。まるで瓦礫をせき止めるかのような状態で目の前で津波は止まったそうです。
私が向かったのは4月末。道路は車が通れるようにきれいに片づけられていました。
しかし、役場のまえの消防署は緊急車両置き場の1階が抜け、海が見えていました。 向かった仲間は、同じ北東北で自殺予防を行う専門家集団で、同じ仲間が被災したということで向かいました。が、言葉もなく作り笑いもなく、みんな顔がひきつっていました。
いくら専門職であっても外部から突然入って住民の方に接することはできないと思い、出直すための情報収集が目的でした。ですのですぐに立ち去るつもりでした。しかし、現地のメディカルから、人が足りないという声を聞き、休暇を取っていた私が一人残ることになりました。
しかし情けないことにすぐにギブアップをし「帰る言い訳」を考え続ける羽目になりました。現実の厳しさに心身が耐えられなくなってしまったのです。完全に怖気づいていました。しかし、今というときは今しかないと思い覚悟を決めました。
役場は土日も関係なく開いていました。ですので曜日の感覚がなくなってきます。職員の方の疲労はどんどん蓄積されますが、興奮状態が続いていますし、何より使命感が彼らの心身を支えてました。経験したことはありませんが、戦場とはこのような意識状態なのでしょうか?
ともに戦っている、支えあっている、そんな感じでした。その職員の方々の健康管理が必要である、まだまだ危機的状態は続くので長期戦に耐えられる環境を作らなければならない。その課題に応える業務が目の前にありました。そこで作ったのが、このポスターです。
外から見えにくい給湯室、コピー室、喫煙室の3か所で行える「カラダほぐしココロほぐし」を考えました。村長さんにはたくさん写真を撮らせていただき一言動機づけを添えました。そして、もっとも反響があったのがトイレの鏡の横に貼った「あいうえニッコリ」です。「硬直し絶望の淵にいた私たちに笑顔を思い出させてくれた」と後にコメントをいただきました。
その後私は、野田村の予算から業務依頼を受け、様々な形で被災者支援に携わることになりました。夏には仮設住宅が完成し、避難所から次々と引っ越しが始まりました。つい立てから一戸の家への移動は当初は大きな心の安らぎを得られたと思います。
しかし、仮の生活するということには様々な困難が立ちはだかります。そのような中、住民の健康調査が行われ、一番の問題として運動不足が浮上しました。エコノミー症候群や不活発病と言われているものです。そこで、仮設住宅で運動を推進する配布物をつくることになりました。
私はこれまでの経験から、多くの資料を保存していましたのでそれらを携えて現地入りしました。あれこれ考えたり、空き家の仮設を借りて出来そうな体操の写真撮影もしました。色々なパターンを手掛けながら、仮設住宅の訪問をしているうちに「机上の空論」に気づいたのです。
正論を持ち出して「あなたの健康のためにやってください」と渡してはたして使われるだろうか?と自問自答したときに応えはNOでした。すべての資料が役に立たないと分かったのです。ゼロから出直そうと決めました。そんなとき保健師が、うつむく姿勢を背伸びさせたり胸を張ったりしてほしい。と言ったのです。これだと思いました。そこで手のひらポスターを作りました。
猫背やうつ向き姿勢から胸を張った開放的な姿勢に促すことを目的として、両手を上げたり開く体操としました。トイレの往復など生活習慣を利用し、柱の両端や鴨居に貼り、通過するごとにポスターに両手を合わせて上半身のストレッチの実施を促しました。「ハイタッチ」や「ふれあう」感覚を疑似的に体験し、一人で行っても触れ合いを感じられるなど見守りを意識するよう促したのです。
また、2か月後には「足裏ポスター」を配布しました。冬季に入り、こたつによる長座姿勢が日常であることから、静脈環流を促すエコノミー症候群の予防を目的とした下肢運動を選択しました。
これはカラーですが予算上、実際は白黒コピー印刷です。2回目の「足裏」の配布時に驚きの事実が判明しました。1回目の「手」は全世帯数188戸のうち在宅82件(44%)、うち貼付率は18件(22%)、「足」は全世帯数187戸のうち在宅98件(52%)、うち貼付率4件(8%)でした。
2回目は大雪だったため在宅は多かったのですが、雪かきで忙しく部屋に上がって貼らせてもらえなかったのです。しかし、2回目の配布時に「手」の利用状況の確認した結果、驚くことに貼付戸数は2.7倍の49件に増加していたのです。なんと仮設の4戸に1戸が家の壁に「手」のポスターを貼っていたのです。
これは、近所同士で説明し勧めていたり、チームで配布したためにその後の訪問で皆が声を掛け合って事後フォローしていた成果が出たのだと思いました。この結果は、10月に開催された日本公衆衛生学会で発表しました。
あれから1年が経ち、再び冬を迎えようとしています。今では手と足のポスターを発展させ、動きを増やしてグループでの体操が実現しています。住民の方から指導する立場になる方も出始め、9月には第1回目の育成講座を実施しました。
躊躇しながらも前に立ち、動きをリードされる姿から、「助けられる立場」ではなく「人のために何かをする立場」に代わっていくことを自覚したキリリとした笑顔が見られました。個人情報を保護するためまだその写真は載せられませんが、いつの日か笑って公開できる日が来ることを楽しみに待ちたいと思います。
最後に私の大事な仲間を紹介します。保健師、看護師、栄養士、精神保健福祉士、理学療法士、作業療法士、そして私、健康運動指導士。海岸線の松林と瓦礫と草の原野をバックに野田村コメディカル集合です。これは今年の6月に特定保健指導終了後の写真。全員写っていないのでまた今度バージョンアップをしたいと思います。
梅田 陽子
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