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梅田陽子のマインドボディ便り

更新日:2012.09.03(月)

【第26話】
地域保健

真夏の車窓から見える東北の太平洋は穏やかで、どの畑にも花が植えられています。
東北の夏は短いと言いますがそれを実感したのはこの花たちからでした。

梅雨の花「紫陽花」が鮮やかな青紫の大輪をモコモコに咲かせています。その横にはヒマワリが陽に向かって並び、裾にはコスモスがたなびいています。まるで見たことのない風景、梅雨と夏と秋が合体しています。木にはまだ青いイガイガの栗がなり、その横で百日紅(サルスベリ)がピンクの花を鈴なりにつけて垂れています。
紫陽花の咲きはじめは、関西と同じように6月ですが、後から後からつぼみが開き咲き続け、そこに夏や秋の花が共演するそうです。そう言えば、昨年の春、何もない黒い泥土に希望の光のようにタンポポが咲き始め、そこに桜とツツジが追いかけて花開いた光景は、そこだけ何も変わらない風が吹いているようでした。


この地で働く保健師さんや栄養士さんらから私は多くのことを学んでいます。

・どれだけ大きな家に住んでいても、どれだけの資産家であっても地主であっても、私たちは偉大な地球の上に住まわせてもらっているだけで、それから考えるとみんな小さくて同じこと。地球から見れば家の大きさや土地の広さなんてちっぽけなことよ。大事なのはどうやって生きているかってこと。

・初めて体験するイベントはその時は感動する。きれいな体操のポスターやチラシはすごいと思う。でもそれはその時だけ。そのあとどれだけ寄り添って一緒に歩いてゆけるか、そっちの方が大事。

・ウォーキングができなくなったとか、おけいこ場所がなくなったとか、不活発病の原因はそんなんじゃない。こっちの家は婚礼も葬式も座敷でできるように造られている。周りは庭というより畑になっている。家を掃除し、畑仕事をし、納屋からモノを運び出したりする生活そのものが運動だった。その家が仮設住宅と小さくなって、動かなくてもよくなった。それがこっちの不活発病。

・転倒予防というけれど、雪の時期に年寄りは誰も転ばない。例え外の便所に出たとしても踏みしめるように歩くから。転んで病院に来るのは、パタパタとせいて動く若いお母さんらかな。

・心臓病、がん、津波、重なっても生きている。ここまでくれば失くすものはない、そういう潔さ(いさぎよさ)を感じる。この2年間で人生の辛さと人の温かさを全部味わった人は多い。


家が流れても、魂までは流されないでその土地に根を張って生きている。その人たちと関わるということ、それが地域保健です。それを支える保健師、栄養士、看護師、精神保健福祉士ら役所コメディカルの皆さん。この村で足りないのは運動の専門家だけでした。それを補って欲しいと役割をいただけたことは本当に光栄でした。

私たちのチーム地域保健の仕事は、マニュアルがあってないようなものですので、保健力が試されます。高血圧、心不全、糖尿病、難病、癌、関節痛、神経痛…いっぱい持ちながら毎日を過ごしている住民の健康を見守り支える仕事。
元気そうに見えても、それは見せているだけでその裏には何かが潜んでいるかもしれない。だから、広くなんでも知っている必要があるけれど分からないことの方が多い。でも分からなくても「おかしい」を感じ取るアンテナがないと見逃してしまいます。手荒れから、抗がん治療の状況をつかみとり、じゅうたんのごみから日常動作を推測する。靴下のあとからむくみを見つけ、植木の育ち具合で外出度を予測する。

運動も、ただ方法を知っているだけでは役に立たない。一人一人の心身の状況、家庭状況、環境などそれらに合わせできる運動を模索し工夫し実行へと結びつける。住民の一人一人がケースワークとなるのです。

東北は8月の夏祭りが過ぎると、駆け足で紅葉がやってきます。
今のうちにできることをしたい。
そう思い、チームで力を合わせてこれからも進めていきます。


梅田 陽子





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