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梅田陽子のマインドボディ便り
更新日:2011.08.01(月)
【第19話】
被災地レポート2
震災から2か月半後の5月末、私は仙台空港に降りました。飛行機は内陸から一旦海に向かい、Uターンして海岸線を垂直に横切り着陸します。
仙台平野を襲った津波は逃げ惑う車を次々とのみ込んでいったあの空からの映像がよみがえり、息をこらえて茶色い田園を見つめました。そして海上を飛んでいるときは、二波三波と次々に一直線にやってきたあの波の映像もまた重なりました。着陸直前、松林がすべて陸に向かって倒れているのが見え、その背景は灰色でした。
到着後、貨物が入る地上階から直接ロビーへ。そこには隅々に乾いた砂がたまっていました。まだ自家発電の仮設空港は、たぶんどこの地方空港と比較しても小さいのだろうと思いました。
壁はありますがその上を板で覆い、支援のポスターや写真が掲示されていました。この光景は公的な場所ではよく見られます。この板で仕切られた向こうに、本当は広い空港が抜けるようにあったのでしょう。そこを波が突き抜けたのです。
ここで京大生が4人亡くなっています。それは卒業旅行中の悲劇でした。同じ学内で同じ時間過ごした学生がここにいたんだ。そう思うと苦しくなりました。
外から見ると囲ってあるだけの空港内は、手つかずであるのがありありとわかり、バスに乗ると一段上からよく見えました。出発するまで手を合わせ祈り続けました。
空港から仙台市内まで高速を走ると、海側の右手と街側の左手でまったく景色が違うことに驚きました。高速道路が緩衝剤になったのでしょう?右手には泥沼の中に車や船が転がっているのです。もう2か月半も経っているのにあのままなのかと声を失いました。見渡す奥の奥まで泥沼が続き、その広さに絶句しました。
被害が大きかった陸前高田や石巻から真西に内陸に40分ほど車を走らせ入ったあたりは、津波の被害こそなかったが震度7の激震が襲った一番揺れた地域です。
私たち関西人の記憶にある、盛りあがり、また沈下し崩れた道路、壊れ傾いた家、ブルーシートがずっと続く街並みがありました。その地に行くまで私は知らなかったのです。津波の被害に目がいって、内陸の震度が大きかったことに気がついていませんでした。
確かに、津波の被害が大きい地域でも、少し高台になると何もなかったような風景が広がります。海岸線を車で走った時、カラー映像と白黒(正しくは茶色の濃淡)映像が起伏ごとに交互に目に入ってくることに違和感を感じました。海岸線は揺れだけで倒壊する建物は少なかったのです。
流された村の村長さんも、地震だけなら大丈夫だったと言っておられました。地震の揺れは内陸に大きな影響を与えていたのです。
激震地を走りながら、同じ経験をした関西人なのに何をしてたのだと思いました。私はそこの内陸のライフラインも海岸線と同じように止まったのを、住む家がなくなり避難した人がそこにもいたのを、降り積もる雪の中に放り出され、情報もなく支援もなく何日も耐えていた人がいたのを知りませんでした。
ぼそぼそと話し始め、半時間後には訴えるように声を荒げたタクシーの運転手さんの生の声を聞くまで、忘れ去られた悲惨な現実があったことを知りませんでした。そんな私に対し運転手さんは、初めのころは関西からの救援車両ばかりだった、ありがたかった。そう言われ、返事一つできませんでした。無知な自分を恥じ、そして津波ばかりがクローズアップされた報道とは残酷だと思いました。
新幹線・バス・車で南北、東西を山を越え川を越えて移動しました。どこまで行っても被害は続いていました。この地の山も海もどこにいる人たちも傷ついているのです。みなさんにこやかに振る舞われます。普通にされています。そのように普通に見えるからこそ大きなものを抱えているのだと思います。私にはそう想像することしかできません。
身体を動かしたら本当に心が楽になった。家族にも伝えたい。今日は眠れる気がする。久しぶりに笑った。そんな声を聞きながら、少しでも身体を通じて心にひと粒の元気を届けられたらいい。自分にできることはこれしかない。そう思い、接する場を与えられたことに感謝しながら、一つ一つ進んでいます。
ほんの少し前に、世にも恐ろしい出来事があったのです。ついこの間、とんでもないことがここで起きたのです。それを私は忘れません。私たちはずっと忘れてはならないと思います。ずっと。
梅田 陽子
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